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スタートダッシュの鍵は、緻密なMD&SNS戦略。Regalectに学ぶニューブランドの在り方

2014.10.30:インタビュー
スタートダッシュの鍵は、緻密なMD&SNS戦略。Regalectに学ぶニューブランドの在り方

Regalect (リガレクト) が支持を集める理由とは?

こんにちは野田 (@KURUZE) です。

去る8月29日、渋谷109の5Fにショップオープンを果たした Regalect ( リガレクト )。既に人気ブランドを抱える大手アパレル企業からスタートする新しいブランドでもなく、芸能人プロデュースなどのニュース性を持つブランドでもない。

会社の立ち上げは昨年11月。ブランドはこの4月にスタートをきったばかりの正真正銘、何の後ろ盾もないニューブランドである。しかし、立ち上げ時にネット販売されたスニーカーが30分で100足を完売。追加販売分も含めると600足をネットだけで売り上げた。さらにはわずか5ヶ月で渋谷109へ異例のスピード出店を果たすなど、まさに破竹の勢いを続けている。

潤沢な資金もない、圧倒的な知名度を持つ有名プロデューサーがいるわけでもない。多くのスタートアップ・ブランドと共通の条件の中、なぜ Regalect は抜きん出ることができたのか?

本日は、Regalectを展開するアストニッシュコーポレーション株式会社で共同代表を務める岡田氏と田尻氏のインタビューをもとに、その秘訣を探っていきたいと思います。

 

設立の経緯・両代表というスタイルについて

―――まずRegalect設立の経緯をお聞きしたいのですが?

岡田 自分でブランドを始めようと思っていたときに、ベリグリ(=株式会社ベリグリ。Ravijourを展開)の前で、たまたま田尻と話していて、そこで「俺、辞めるから」って聞いて。「じゃ、一緒にやりましょうよ」っていうのが、2人で始めた経緯ですね。

―――田尻さんを誘った理由は何だったんですか?多分、それが違う人だったら誘わなかったんだろうし。

岡田  完全にタイミングですね。パワーパーソンってそんなに右行ったり左行ったりするもんじゃないと思うんで。変な話、ちょっと運命的(笑)。1人でやるのは寂しいし、誰かいないかなと思ってたところだったので。

―――田尻さんが持ってるスキルの中で、こういうところがあるから組み合わせとしてバランスが良いとか、そういうことではなくフィーリング?

岡田  はい。できるだけ自然の流れに任せることが、一番ベストな流れになると思ってるので。

―――そのとき田尻さんは辞めるということで、何か次の一手を考えていたのですか?

田尻  そのときは辞めるって言ってほんの数日しか経っていなかったので、整理がついてなく、ちょっと考えようかなと思っていたタイミングだったんです。そこに岡田から話をもらって。元々知っていた仲ですけど、一緒に仕事をしたことはなかった。タイプとしては全然自分と違うけど、それが自分にとって勉強になるんじゃないかなって思いました。

―――両代表というのは珍しいと思うのですが、そこに落ち着いた理由は?

岡田 社長って、死ぬ気じゃないですか?

―――はい

岡田 だから死ぬ気の人が2人いたら死ぬ気×2になる。そうするとスゴイんじゃないかなって。途中で「やっぱ、俺飽きた」って言われることがないしね(笑)。

 

軸は素材。従来の縦割りMDとは一線を画す横軸MD

denim

―――次にブランドのコンセプトについてお聞きしたいのですが、ブランドの強みとして【 デニム 】を打ち出しています。その理由は何でしょう?

岡田 普通ならDURASならお姉さんぽいとか、dazzlinならかわいいとか、MD軸で切っていくじゃないですか。僕らはそれを素材で横軸を通そうと思ったんです。素材軸でまずブランドを作ると。

―――「お姉さんぽい」とか「かわいい」というようなテイストごとではなく?

岡田  はい。横軸にすると絞り込んでいるようで、客層は全員がターゲットになってくる。広く浅く全員を取れるという部分が狙いなんです。

―――なるほど。デニムほど間口が広いものはないですからね。しかも世界的に見て日本のデニムたるや。

岡田  そうです、そうです。日本のデニムって世界で一番なので、世界を含めて広く浅く狙えるんじゃないかなって。日本のトレンドって山あり谷ありなわけでブランドを立ち上げるにあたって、そろそろデニムブームがくるというのは何となく見えていました。しばらくして谷が来たとしても、世界に発信しておけば一定の需要は見込めるので。

―――あっちも獲りたい、こっちも獲りたいって、なかなか絞り込む勇気が持てないブランドってありますが、新しいブランドは特に強みを明確にしてメッセージとして発信していかなければ、そもそも選択肢に入ることもないですよね。

チャレンジャーなわけで、王者の戦略であるすべてのニーズに応えようなんてできるわけがない。縦軸でも横軸でも一部分で良いので、ここなら負けない!というような独自化が必要になってくる。

そういった観点でもデニムというアイコニックなものを軸に据えることで、お客様の選択肢には「デニムを買うならRegalect」という認知が早い段階から植え付いているように感じます。

岡田  ありがとうございます。シャネルっていったらツイードみたいに、トップブランドになってくると得意な素材があるんですよね。ユニクロもそう。あそこはデザインでもMDでも価格でもなく、素材で当ててると考えています。ヒートテックとかフリースとかね。だから「フィーチャーすべきは素材」という部分からスタートしてデニムに行き着きました。意外と論理的なんですよ(笑)。

しかもデニムを軸にすることで、やることが一気にシンプルになった。( デニムの生産地として名高い )岡山に行ってデニムの生産者とがっちり組んで生産するわけですが、他のアイテムはデニムに合うものだけ考えればいいんですよ。従来の方法で商品ラインナップを考えるより全然スムーズにいきましたね。パッケージで勝ったというか、無印良品の仕組みが9割みたいな(笑)。そういう小ちゃい仕掛けがいっぱいあるんです。

―――やはり。そういう仕掛けが裏側にあることで、表側で伝えられるメッセージが生まれてくる。後はそれをしっかり伝えることで独自の要因が認知され、ブランドとなり価格比較されづらくなっていく。しかも地場産業に貢献するというストーリー性も持っている。

岡田  デニム工場の方と話したときに嘆いていたんです。中国に仕事はとられるし、日本の仕事も値段をたたかれる……。「俺に5000円~6000円くれれば、ものスゴく良いデニムを作ってやるのにさ」って。「じゃあ、いくらでもいいから、ものスゴいデニム作ってください」と職人魂に火をつけるわけです(笑)。

―――(笑)。確かにそれは心強い。役割分担というか。

岡田  僕らに販路はある。今後広げていくツテもある。僕たちが世界までの道を作るので、皆さんはとにかく良い物を作ってくれと。デニム職人の方たちとジョインして1つのブランドを作り上げるイメージです。

 

STORES.jpでのスタートダッシュ!そして渋谷109出店へ

Regalect sneakers

―――それでは次にその販路についてお聞かせください。まず通販からスタートするわけですが、STORES.jpに店を開けて、ブランドサイトはTumblrで作成しました。やはりコストメリットを考えると、今後、スタートアップのブランドにとってこの組み合わせが増えていくと考えているのですが、どういった経緯から選ばれたのでしょうか?

田尻  僕らのミッションとして【ハイクオリティ・ミドルプライス。最高級品を手に届く価格で】というものがあります。それこそ単純に価格勝負しても安いものは他にたくさんある。ならば本来高いものを安く提供していこうと。

ただ、そうすると原価率が異常に悪いんですよ。平均の原価率を見ると大手アパレルのプラス10%ぐらいはいっている。では、それをどこで補うかというと、あらゆるコストを軽減して販管費を抑えていくしかないんです。

岡田  だから通販手数料も当然削らねばならない。色々な人にお話を聞いていくなかで、じゃあSTORES.jpだねって。月額980円(=多機能なプレミアムプランの場合。無料のフリープランもある) だし、現時点で機能的には十分。

商品力に自信があったので予約販売とか、セット販売とか、そういう機能は特に必要としなかった。普通に置いて普通に売れてくれればいいと(笑)。でも1番の決め手はやはり価格ですね。自分たちで全部やれば月額980円。みんなも登録やささげ業務をやりなさいって書いておいてください。

―――僕らの商売あがったりですね(笑)

一同 (笑)

田尻  Tumblrについても同様にコストメリットですね。もし既存の企業の中で新しいブランドを立ち上げるとなったら、お金があるのが前提なので気づけなかったと思います。でも自分たちでやる以上、身を削っていかなくてはならない。

岡田  すっごく簡単な言葉でまとめると、寝ないで利益が出るんなら寝なきゃいいじゃんっていうGILFY精神(=岡田さんは元GILFY副社長)。お金は欲しいというのに、不景気で売れないとか理由をつけてみたり、残業があったらブラック企業って言ってみたり。お金が欲しいのか欲しくないのかはっきりしろと(笑)。

―――そうしてオープンを果たしたSTORES.jpでは、いきなりスニーカーが爆発と。最初に何足ぐらい売れたんですか?

岡田  30分で100足ですね。ツイてる(笑)。ここに計算はあまりない。でもスリッポンが売れるだろうなって思っていたところに蛍光の生地を見つけて、それを当てはめてみたら死ぬほどかわいかった。

―――スタートでそれは本当にスゴい。そして8月には109の5階に実店舗をオープンしました。1店舗目に渋谷109を選んだ理由を教えていただけますか?

岡田  聞いちゃう(笑)?99%の人がNOでしたね。でもマルキュー出店の意義っていくつかあって、1つは単純に僕らが渋谷育ちだっていうこと。いきなり違う土地でやるのは何かね。後はファッション「カルチャー」の発信っていう目線で見ると渋谷は外せない。

渋谷店のコンセプトとして【ここから日本のデニムを世界へ】というのがあるんですが、ファッション「カルチャー」の中心を渋谷として考えたときにどこが一番目立つ店舗か考えると、誰しも真っ先に思い浮かぶのがマルキューだと思うんです。

―――確かに世界の人の目線で見ると、マルキューは知っているけど他のディベロッパーの名前は知らない人が多いと思います。館として前年がどうとか言われていますが、マルキュー系と呼ばれるように私企業の施設名であるにも関わらず、ウォークマンやバンドエイドのように同一ジャンル全体を表す象徴的な存在になっています。

渋谷にある「109」という場所が持つ価値より、皆が頭で連想する「マルキュー」というイメージの方が今や遥かにパワーを持っている。それは日本に限らず。だからこそ情報拡散していく上でのフラッグシップとしては、日本有数の存在であることには間違いないと思います。

岡田  そうですね。ニューヨークのタイムズ・スクエアビル以外に、知ってるビルの名前挙げてって言われても、なかなか挙げれないでしょ(笑)。それと同じで、海外の人から見ると「マルキュー」って1番有名なファッションビルだと思うんです。

 

使うのはお金ではなく頭。口コミ・拡散を誘うSNSプロモーション

109open

―――最後にプロモーションについて。109オープン時のインスタグラムでの告知 (=上記の写真) や展示会のタブロイド判DMなど、プロモーションの手法を見ていると、すごく上手いなぁって感じます。海外で話題の手法を応用していたり、工夫とメッセージ性がある。鍵はやはりSNSなのでしょうか?

岡田  はい、お金がないんで(笑)。だから口コミしかないんですよね。僕の中でRegalectの最初のターゲットはモデル、モデルの私服でした。彼女たちがキャーキャー言うものを作れれば、後はSNSで拡散されていくと。でも商品提供は一切していません。普通にお金を頂戴します。

だから必然的に買っていただいたモデルさんたちは、本当に欲しくて買ってくれるんで実際に着てくれるし、SNSにもアップしてくれる。貰ったから掲載するのではなく、純粋に欲しいから、着たいから紹介してくれる。

―――お二人の身近にモデルさんがいるのも、大きなリーチですよね。

岡田  はい、やっぱりそうですね。佐野真依子さんとか宮城舞さんとか、影響力がある子が紹介してくれたときのフォロワー数の伸びはスゴい。あっ!あとインスタでは商品名しか載せずに、あえて価格は掲載していません。

―――その理由は?

岡田 買う買わないの前に、気に入るか気に入らないか? という観点で見てほしいのが1点。それと情報化社会の今、どこに行っても何でも情報が取れるじゃないですか。だから逆に情報を出さないようにして、情報を取りに来てもらいたいと思っています。

もちろんお問い合わせがあれば真摯に答えます。そうすると情報を手にした人は、その情報を広めたがるでしょ?

―――なるほど。確かにそうですね。昔話ですが、ゴローズやノーウェアに並んでやっと店に入れたけど何も商品がない。そんなときにお店の人がこっそり教えてくれた入荷情報なんて、国家機密を手にしたより貴重に思えました。しかも今はそれを拡散するメディアを各個人が持っている。

岡田 そうなんです。すべてにおいて僕たちがやっていることって特別新しいことではないんです。原点回帰。一生懸命に服を作って、たくさんの人に一生懸命広めるっていう。今の20代の子たちって途中からこの業界に入ってきてるから、アパレルってこういうものってある程度成熟してからしか知らないんですよね。

一方で僕らくらいの昭和50年から55年生まれの世代は、109バブルで大暴れさせていただいた世代なんですよ。でも僕らが暴れられたのは、こんなクソガキどもがやることに投資して自由を与えてくれた鬼頭社長(=EGOIST 代表取締役)だったり、桐生社長(=DURAS 代表取締役)のような大人がいたからなんです。

でも今の業界を見渡すと成熟して規模も出てきたので、管理する方としては余計なことをして失敗されたくないので、どうしても無難になってくる。原価率30%とか仕入れはここまでとか、安全な選択肢を選んでおけば売れても売れなくても、そんなに上司は責められないですからね。でもそれって、若い子にとってちょっと可哀想だなって。

オジさんとオバさんがもう1回奮起して、20代の爆発的なパワーと発想力をもっと自由に活かせるステージを作ってあげたいなって思います。Regalectはその足がかりであり、新たな時代を作る人材を育てる場所にしたいと考えています。あの熱い時代を経験してるからこそ分かる、今何をすべきかという僕なり応え。それがRegalectなんです。

 

インタビューを終えて……

やはりRegalectには、強いメッセージを生み出す、美しいストーリーが存在した。

  • スタイルごとに区切るのではなく、デニムというどんなスタイルにでも受け入れられる「素材に着目」し、

  • 世界一と自他共認めるブランド力を持ちながら、コストのジレンマに陥っていた岡山のデニム職人たちに「コスト制限を大幅に緩め職人魂に火をつける開発手法 」を用いる。

  • そのコストを捻出するために、自分たちでできることはやるという「自前主義」を貫くことで販管費が削られ

  • 強いメッセージ性を持つ【ハイクオリティ・ミドルプライス】が実現するのである。

「お金がないから使えない」とお二人はインタビューでよくおっしゃっていましたが、個人的には「そこには」お金を使わない、が正しいのかなと感じました。

お金をかける場所はプロダクト。頑なに商品に投資するプロダクト原理主義を貫くことで生まれた美しいストーリー。それがSNSという自前のメディアを使って、独自化されたメッセージとして拡散されていく。

使えるリソースは、わずかな資金と持っている人脈、そしてアイディアだけ。そんな制限だらけのスタートアップのブランドにあって、まさにお手本ともいえるRegalect。視界良好。世界に向けての第一歩は確かに刻まれた。

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野田 大介

野田 大介

株式会社ファナティック代表取締役
月刊誌Ollie magazineの編集者からキャリアをスタート。その後は、フリーライターとしてhoneyee.comやLightningなどでの執筆、複数のアパレル企業で商品企画、生産管理、店舗/卸営業、通販業務を歴任。現場の最前線で培った通販の運用実積に加え、メディア業界で培ったコンテンツ・マネージメント力、そして長年のアパレル経験と、アパレル通販を運営する上で必要な知識と現場経験の両面を網羅。趣味、というか生きがいは「買い物」

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